柞刈湯葉『人間たちの話』

柞刈湯葉(いすかり ゆば)さんの『人間たちの話』(ハヤカワ文庫JA)

わたしは、漫画『日常』の作者あらゐけいいちさんの書く漫画、イラストが好きで、プラモデルのメカトロウィーゴーの箱絵があらゐさんだったから買ったし、本屋さんであらゐさんの書いた表紙のイラストを見ると手に取らずにはいられない。

が、しかし今回は逆。

柞刈湯葉さんのことは、横浜SFを読んで知りました。我々の生きる日常と少しずれた、あくまでの可能性の先にある世界を面白く書かれていて、他の作品も読んでみたい!と丁度思っていてTwitterを見たところ、短編集を出されたばかり、しかも表紙があらゐさん!と知り、仕事のお昼休みにすぐに買いに行った。


こういうとき、働いてよかったなと実感する。

働いてよかった点はいくつかあり、世の中には自分中心に物を考える人が居ると知ったこと、理不尽に怒られるということはよくあると知ったこと、恐怖政治は従う者の判断能力を鈍らせると知ったこと、そして働いて得たお金で欲しいものが買えること。

私は貧困家庭育ちなので、欲しいものなんて全然買ってもらえなかったが(親の代わりに姉たちがたくさんプレゼントをくれたので寂しくはなかった)、大人になってお金を手にしたらこうですよ。全てが本と税金となり消えていく。

いや、でもですよ、私は大人になってから誕生日、クリスマス、ことあるごとに何が欲しいか?と聞かれては『図書券』と答えますが、姉たち以外に貰えたことがない。図書券を何故渋るのだ大人たち。私が子供のころは喜んでくれたじゃないか。私は本が欲しいのだ。



心の声のせいで話がずいぶんそれました。すいません。閑話休題


さて、『人間たちの話』今までに出された短編を集めた一冊です。いすかりさんの小説は、なんといっても読みやすいこと。読書が苦手な人にもおすすめしやすい文体と設定。何度も言うが、やはり読みやすさは少なからず想像しやすいことが関係する。

たとえば場所についての描写がくわしく書かれている。それもストーリーの中に馴染むように。

物の形、色にも言及されており、想像しにくいことがない。

それ以外にも、SF小説であるが故に頻繁に登場する見たこともない宇宙人や、進化した生物。

それぞれも、やはり形、質感、どういった理由でそのような形をしているのかなど書かれており、理にかなっていて想像しやす要因のひとつだ。

私は信じやすいので、これが小説だと知りながらも、この話は(本の中の科学的部分)本当なのかも、、とわくわくした。私が少なからず生物学や量子についてなど興味があるのは、SF小説のおかげである。

どの短編もタイプが違い、とても読みやすいのだが、オススメは『重油ラーメン』と『人間たちの話』。重油ラーメンはゆかいな宇宙人たちの話だ。そしてラーメン。人間たちの話は、科学者が登場するので難しく思うかもしれないが、最大限に分かりやすく説明されていることと、科学の部分以上に人間のはなしなのである。人間という宇宙人の。


年齢的には中学生から楽しんで読めると思う。
この短編集はずっと手元に置いておきたい一冊になった。柞刈湯葉さんの次のお話しも楽しみにしている。